純文学の王道

中上健次 選集1 「枯木灘 覇王の七日」小学館文庫
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 読んでから少し時間が立ったので、印象が散漫になってしまった。

この物語は「血」と「地」を巡る物語である。

主人公の秋幸を中心とした一種のサーガである。

和歌山の山あいの閉鎖的な田舎町のどこか不穏な空気が全体に漂っており、その緊張感が最後まで切れる事なく持続している所が、この小説を特別なモノにしている。

秋幸の実父の龍造は、この土地で悪行をなし、刑務所から戻って来ると更なる悪徳でもって、やがて覇王へとのし上がる。

秋幸は「血」の因果の軌跡を過去に求めたり、未来に向けてみたりするのだが、やがて残酷な現代に目を向けざるを得ない事に苛立ちを覚える様になる。

異父兄姉との禁忌や龍造の実子との対立は、秋幸の固有の物語に混迷をもたらすばかりで、簡単にカタルシスを得る事を許さない。

この小説を読む者はそのカタルシスの無さ、重苦しさに付き合わざるを得ないのだが、もう一つの特徴として脇役的な人物達にも芳醇な物語があり、そっちを軸として読めばまた違った楽しみ方が得られるだろう。

何度もリリードする事で深味を増すストレートな純文学である。