じわじわと死が近づいて来る

ネビルシュート 「渚にて」 創元推理文庫
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映画化もされ、その作品が賞もとり、何かと語られる事の多いこの小説。

ちなみに大阪のサイケバンドのバンド名の由来にもなっている。

一般的には名作とされているみたいですが、個人的にはあまりにも長すぎると感じました。

核戦争の影響で放射能が世界中に蔓延し、ゆっくりと死を待つと。

いわば結末のわかっている話であり、そのバッドエンドまでの淡々としたロービートの日常が描かれている。

同じテーマのハリウッド映画なら必ず暴動や略奪のシーンが出てくるけど、そっちの方がリアリティあると思う。

今の日本に置き換えて考えてみても、どうせ死ぬんだからムカつくアイツを俺の手でぶち殺したいと、殺人事件を起こす奴や、童貞のまま死にたくないと、強姦を試みる奴など多数出てくると思う。

まあそれは極端な意見だとしても、穴掘って核シェルター作ったりしてあがいている人が一人も出てこないのは疑問だ。

ところでこの文章を書いている一週間ほど前に口永良部島で噴火があり、喜界カルデラを刺激し最悪、破局噴火に至る可能性もあるとのニュースが出ていた。

もし何かあったらとりあえず自分は東北方面に逃げるよ。

あがきまくると思う。

 

ケシ 阿片 モルヒネ ヘロイン

三留理男 「麻薬 ヘロイン」 光文社文庫
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例えば中島らもの「アマニタパンセリナ」や石丸元章「スピード」や麻枝光一の「マリファナ青春旅行」などは、麻薬の個人体験記としての名著でありいずれも楽しく拝読したのだけれど、この本はそれらとは少し違うテイストの本だ。

最後まで三留氏が麻薬を体験したのか判然としない。

情緒を廃した淡々とした文章で麻薬と麻薬を取り巻く政治について書かれており、上記の作品とはまた違った凄みを感じさせる。

氏はカメラマンであり、この本はカラー写真が三分の一を占めているのだが、ある意味写真は文章よりも雄弁である。

ゴールデントライアングルの相当深い所まで行って撮影したのが良く分かる。

あの角川春樹もゴールデントライアングルを潜入取材したという触れ込みの本を出していたそうだ。

仰々しい文章で書かれた嘘臭い本であるらしく、そっちもぜひ読んでみたいものだ。

タモリ

タモリ論 樋口毅宏

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関西出身でダウンタウン世代の自分にとってタモリは一世代前の人というイメージだったし、「いいとも」における良く言えば安定した、悪く言えばヌルい笑いに批判的だった時期もあった。

そんな時、あるドラマをきっかけにタモリのイメージが変わったのだった。

歌手デビューする前の浜崎あゆみが女子校生を演じ、その相手役としてタモリが地味な中年教師の役で出演していた。

連続ドラマではなく、1回だけの2時間ドラマだったと思う。

タイトルも内容も憶えていない。

その時初めてサングラス姿ではない普通のメガネを掛けたタモリを見たのだ。

つまり普段はサングラスの奥に隠れているタモリの目を目撃したのだ。

「ナニカコノオトコハヘンダゾ。ナニカアルゾ。」とその時思ったことは良く憶えている。

全てを諦めた者にしか出せない猛烈な虚無感と脱力感。

これはドラマの役柄なんだろうけど、タモリという男の実相なのでは?と。

あと、そのすぐ後ぐらいにデビュー当時にリリースした2枚のLPがCD化されて、ジャケットに載ってる若かりしタモリの写真も何だか変な感じがした。

お笑い芸人らしく妙な扮装をしたタモリの写真なのだが、そこでも目が露出していた。

その目は、はやり虚無的にも、悲しみを湛えている様にも、危ない変質者の様にも見えた。

ますますタモリという男が気になる。

そんなこんなでタモリに改めて注目してみると、タモリタモリ自身に熱を持って支持して来るヒトに対して妙によそよそしく、居心地悪い様な接し方をしているのに気づいた。

俳優の井浦新タモリを師匠だと思っていると言った時のその後のギクシャクした会話、氣志團綾小路翔が廃盤LPの「タモリ3」を持って現れた時は「よく見つけたねえ」の一言だけだったし。

この辺の問題に関しては石川誠壱氏の「誠壱のタモリ論」が詳しい。

というかタモリ愛が強過ぎてタモリにそっぽ向かれた人は数多くいるが、この石川誠壱氏はその最右翼と言えるだろう。

あわせて併読をお薦めする。

ただこの本、世田谷ボロ市で出したミニコミなのでネットでしか手に入らないけどね。

果たしてコージー冨田といつ共演するのだろうか?

 

 

 

 

高齢化社会の行く末は?

有吉佐和子 恍惚の人
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この本の後に読み始めた樋口毅宏の「タモリ論」に偶然載っていたのだが、この「恍惚の人」が売れて儲かったお金で、新潮社の別館が建てられたそうだ。

1972年のベストセラーである。

痴呆になった祖父に右往左往する家族の物語を嫁目線で描いた作品は、当時の人々にとっての少し先の未来の厄介事をテーマとしている。

ただ、この40数年の間に老人になり、死んでいった人達はまだましなほうだろうと思う。

時代が変わり、科学が進歩しても解決出来ないでいる問題であり、2018年の今読んでも恐ろしく今日的な課題をいくつも含んでいる。

しかし、もし今、同様のテーマで小説が書かれるとしたら、身寄りのない下流老人の痴呆問題、それに伴う事故や犯罪といったあたりが軸となって展開すると思う。

個人的にこの小説を読んで一番驚いたのは、主人公の夫婦がセックスレスでないところ。

この時代にはまだセックスレスは顕在化してなかったのか?

この部分の方が時代の変化を感じさせると思った。

苫米地さん

苫米地英人 音楽と洗脳
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図書館で借りた本。

本来はCDが付属しているが、付いてなかった。

しかし読み物としてだけでも、大変、勉強になる本だった。

三平方の定理を発見したピタゴラスが最初に音階を発見した事。

そしてピタゴラスは学者としてではなく、宗教家としてそれらを重要視したという事。

そのピタゴラス音階がやがて時代の流れとともに、純正律に、そして現代の平均律へと主流の座を取って変わられたという事。

平均律による和音は狂っているという事。

どこかで聞いた事のある知識ではあるが、非常に論理的でわかりやすい文章で、まさしく教養って感じでしたね。

で、更に高周波、低周波による脳への影響から特殊機能音源の説明へと。

随所、随所にはさまれるハイエンドオーディオの自慢も楽しい。

是非、CD付きの物を家で所有しときたい一冊でした。

 

 

いつのまにかディストピア

中原昌也 ノーマン・イングランド 小野寺生哉 寺沢考秀 ナマニク 鷲巣義明 高橋ヨシキ    「映画のディストピア
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劇団大人計画の主宰者である松尾スズキの小学生時代のエピソードで「神様コンプレックス」というのがあって。

神様が自分の行動や言動を常に見張っていると。で、神様を出し抜く為に例えば目の前の物を手に取る時も、普通に手を差し出すのではなく変な動きを加えたり、有り得ない場面で急に奇声を発したりしていたそうだ。

クセが強い奴つーか単なるキチガイじゃん。

と、大笑いしていたわけですが。

2018年現在これを大笑い出来ない状況だなと。

外に出れば監視カメラが溢れているし、スマホを開けば、自分の興味のある事やモノについての情報が用意周到に提供されている。

自分を取り囲んでいるのが購買意欲を煽る目的の「資本」だけであるなら、買わないという選択肢で対抗出来る。

恐ろしいのは思想や価値観、感情ですら誰かに導かれている可能性があるということ。

例えばあなたが左翼思想の持ち主だとして、左翼にまつわるワードばかり検索していると、いつしか自分自身の左翼思想を補完する情報ばかりに取り囲まれる事になる。

仮に極端な差別思想であっても、人を殺してみたいというネガティブな感情であっても、ネットなら簡単に賛同者を見つけることができるだろう。

ヘイトデモをやっている連中などは大方こんなところだろう。

他人事ではない。

自分自身の情動すら疑わなければいけない。

正にディストピアである。

 

 

殴り込み

ギンティ小林 新耳袋 殴り込み 第一夜
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新耳袋シリーズの中でも「山の牧場」と「八甲田山」を収録した第四夜は異質だった。

幽霊の出て来るいわゆる「怪談」とは違う、この世のルールの埒外に存在する何かがこの世にぬるっと入り込んだ気持ち悪さ、まさしく「怪異」と呼ぶしかない現象を文章化した名作だった。

この何が起こるか、何が出て来るかわからないそんな場所に、著者のギンティ小林をはじめとして何人かの男たちが殴り込みをかけるというバカ企画である。

真相解明を求める向きには食いたりなさが残るかもしれないが、むしろギンティ小林の心の推移のドキュメンタリーとして捉えれば、とても面白い読み物だと思う。

体のほぐれた文章というか体温に近い文章というか。

特に編集者の松崎やコブラゲンといった空気の読めない他者が介在する時の文章は、べらぼうに面白かった。